2020年／フランス／フランス語／96分／スコープ／カラー／5.1ch／日本語字幕：星加久実／原題：La Fine fleur／配給：松竹

キャスト：カトリーヌ・フロ、メラン・オメルタ、ファツァー・ブヤメッド、ヴェラ：オリヴィア・コート、マリー・プショー、ヴァンサン・ドゥディエンヌ
監督：ピエール・ピノー
脚本：ピエール・ピノー、ファデット・ドゥルアール、フィリップ・ル・ゲイ

あふれる才能と魔法のような指で新種のバラを開発し、数々の賞に輝いてきたエヴ。だが数年前から巨大企業のラマルゼル社に賞も顧客も奪われ、亡き父が遺してくれたバラ園も今では倒産寸前に。助手のヴェラが何とか立て直そうと、職業訓練所から格安で前科者のフレッド、定職に就けないサミール、異様に内気なナデージュを雇う。だが3人は全くの素人で、手助けどころか一晩で200株のバラをダメにしてしまう。そんな中、エヴに新種のアイディアが閃いた！ 交配に必要なバラがラマルゼル社のバラ園にしかないと知ったエヴは、フレッドにある“特技”を披露させる。パリの新品種コンクールまであと1年、はみだし者たちの壮大な奮闘が幕を開ける──！

人生は捨てたもんじゃない。
映画のエンディングロールを見ながら、そんなことを考えていた。

舞台はフランス郊外にあるのどかなバラ園だ。
新種のバラを開発して数多の受賞歴を持つ育種家（ローズメイカー）のエヴが、父の遺したバラ園を倒産寸前から立て直そうと奮闘している。

始まりは優雅なバラの映像。
しかしそこからテンポよくストーリーが刻まれ、あっという間に引き込まれて次の展開が待ち遠しくて仕方ない。

世界屈指のローズブランドが監修している豪華なバラは、息をのむほどに美しい。その豪華さと相反して、登場人物は決して多くなく、台詞はシンプルに感じる。フランス語をかじったことのある人であれば、聞き取ることができるであろう。

しかしシンプルなだけに、一つひとつの台詞が奥深く、まっすぐに心に響いてくる。我が原風景から遠い記憶が呼び覚まされるかのような感覚にとらわれたのは、人生のどこかで同じような悩みを経験したということだろうか。人はオンリーワンで、誰でも輝くことができる。そして誰かを輝かせることもできる。そんな勇気をもらうことができた。

エヴを演じるカトリーヌ・フロの存在感は『大統領の料理人』と同じく秀逸で、なかでもバラの交配をする場面のオーラは圧巻である。彼女の言葉はスクリーンを超えて、心に語り掛けられているかのようだった。特に、「はみだし者」にかける言葉の数々が心に沁みる。ぜひ映画館で耳を傾けていただきたい。

もう一つ特出すべきは、作品の中で重要な役割を担う「ライオン」という品種のバラ。実はこの黄色いバラはフランスで開発されたのち日本にも渡り、「伊豆の踊子」という名称で販売されている品種だ。各地のバラ園でも鑑賞することができ、日本人にとってもなじみ深いバラである。

まっすぐに、ただまっすぐに、バラ園を歩いてみたくなった。